楽器の維持管理について


弦と弓の毛の寿命について

ヴァイオリンの弦や弓の毛は弾かなくてもどんどん劣化します。弦や毛は切れなければ良いというものではありません。最低でも年に3〜4回季節が変わる度に交換して下さい。私たちの場合はせいぜい1月から1ヶ月半しかもちません。そのまま使っていると音が(ついでに耳も)悪くなります。特に梅雨時は劣化が激しいです。気をつけましょう。特にE線はすぐ錆びるので他の弦の半分くらいの期間で交換して下さい。弓の毛も弦と一緒に替えて下さい。

弦の交換についてですが、必ず1本づつ替えて下さい。4本全部外すと魂柱が倒れます。
また弦を巻き上げるときは、駒が倒れないように駒の角度に注意して下さい。駒が倒れて駒が割れるのはまだ良いのですが、表板が割れると楽器の価値はガタンと落ちます。特に裏板の魂柱のあたっているところに傷が出来ると楽器の価値は1/3くらいに落ちますので、充分ご注意下さい。弦の張り方は次をごらん下さい。


弦の交換の仕方

ここでは弦の交換の仕方を説明します。まず弦は1本づつ交換して下さい。どの弦からでも良いですが、1本はずして交換し弦の音程を大体合わせます。次の弦をはずし、また大体音程を合わせます。こうして4本全部交換してから音程を合わせます。4本いっぺんにはずすと「魂柱」が倒れたり、位置がずれたりします。

弦はこのようにそろえて巻き、糸巻きの穴の位置にもよりますが、弦が糸蔵に触ってゆるまないようにして下さい。
全部の弦を交換したら駒をみて下さい。
駒の自分の側の面が楽器の側面と表面の境の線に対して直角になるようにして下さい。駒の上の面 がこの位置よりずっと左にきている場合は次のようにして駒の角度をなおして下さい。
右手の親指と人差し指で弦を強く挟み、左手の親指と人差し指で駒を右に押します。ふつう右手が利き手ですから左手で押す力より、右手で押さえる力の方が強いので、左手で強く押しすぎても右手でそれを支えることができます。(つまり左手で駒を押して、右手で駒が倒れるのを防ぐ)

駒の角度を直すのにこのようなスタイルで直すのはお奨めしません。なぜなら力加減が難しく、動かしすぎたとき止められないからです。弦の張力は強いので、あっという間に駒は倒れてしまいます。

指板の下にある白い四角の板のように見えるのは、ウェッジというものでボール紙を何枚も重ねて油紙で包んだものです。これは湿気で指板が下がるのを防ぐために使っています。(楽器をケースにしまっておく時はいつも入れておく)


楽器の長期的なメンテナンス

 楽器を何年も弾いていると少しづつ老化が進んでいきます。気をつけていただきたいのは以下の点です。
1.楽器の胴体の手が当たるところ
 ハイポジションを弾くと楽器の肩の部分に手が触るので、ニスが少しづつはがれてきます。木の生地が出てきたら、ニスを塗ってもらって下さい。手の当たるところにテープを張るのも良い方法です。古い楽器ではいつも問題になります。
2.指板
 梅雨時など湿気の多いときに左手がきついと思ったら、指板の高さに注意して下さい。指板の延長線が駒とぶつかるところの表板からの高さは標準で27mmです。2mm以上下がると指がきついでしょう。分からなかったら楽器屋さんに測ってもらって下さい。
 その場合まず自分でやってみることは、ケースの乾燥です。弾いている間にエアコンのドライの風をケースに当ててみて下さい。(楽器や弓に直接当てないで下さい。)
もっと有効な方法はバスタオルか新聞紙にアイロンをかけ、熱くなったそれらをケースに入れてフタをして1時間くらい放っておくことです。(その時ケースの中身は前部外に出して下さい。楽器、弓はもちろん、松やにも熱に弱いです。練習中にやれば良い。)
 ケースの乾燥をしてもまだ指がきつい場合は楽器屋さんに直してもらって下さい。

 もう1つは指板の弦の真下の部分がへこむことです。いつも弦を押さえているので、指板がほれてくるのです。こうなったら指板全体にカンナをかけて平らにしてもらって下さい。
3.駒
 古い駒をそのまま使っていると弦の張力に耐えきれなくなってきます。一般的には駒は10年から20年くらいは持ちますが、駒の中央が曲がって、お腹が出てきたような状態になってきたら替え時です。

 ニスを塗るのはその場で出来ますが、指板を上げるとか駒を新しく切るのは何日か楽器を預けないといけないでしょう。その場では出来ませんから時期をよく考えて下さい。このように楽器の状態をよく知っている、皆さんの楽器の主治医となる楽器屋さんを見つけることが大切です。


ヴァイオリンのニスについて

 ヴァイオリンのニスが白く変色することがあります。これは結論から言うと楽器のニスの質と楽器の扱い方の問題です。楽器を扱う鉄則として、「楽器は水気を嫌う」があります。これはヴァイオリンを扱うときの常識ですので、知っておいて下さい。
 またニスにも大きな原因があります。安い楽器のニスは質が良くないので、何かあるとすぐ白く変色します。私たちの使うクラスの楽器では、汗をかいたくらいで変色したりしません。(もっとも私たちは汗をかいたらすぐその後にきれいに拭き取ります。)
 ヴァイオリンはこのニスが難しいから高いのです。やはり最低でも30〜50万以上のものでないとニスも質は良くないです。楽器を良い状態においておくためには手間がかかるのです。

 他にも安い楽器を買うことの危険性はいろいろあります。まず安い楽器は熱によるプレスで楽器の形をつけていますから、年月が経てば歪みが出るのは当然です。また熱で変形したものですから音も良くありません。弓も安いものは棒切れと同じような材質のものが多いです。それがいやだったらある程度の投資をしてちゃんとしたものを探さなければいけません。


楽器をどこに置いていますか?

 みなさんはオケの練習の休憩時間に楽器をどのように置いていますか?

 このようにイスの背にもたせ掛けてそのままお茶を飲みに行ったりしている人はいませんか。これは自殺行為です。オケの時は色々の用事でこのイスの横を沢山の人が通 り抜けるのですよ。誰かが間違えて足を引っ掛けたら楽器はどうなりますか。それに見て分かる通 り弓が滑り落ちますよ。
 どうしてもイスに置きたいならこのようにすべきです。これならまだ被害は少ないでしょう。でも倒されたら楽器は傷つきます。一番確実なのはケースの中にしまってジッパーをかけておくことです。

 


楽器の取り扱いについて

 ヴァイオリンを取り扱う上で最低限知っておいていただきたい事2つです。

1.楽器に触るときは絶対に素手でニスに触らないこと
 楽器を持つときはネックを持つことです。また楽器の表面を叩いたりしないこと。(軽くてもダメです。)

 他の人の楽器を見せていただく時にはこのように持って下さい。絶対に楽器の肩を手でつかまないで下さい。

2.直射日光に当てないこと
 ニスが変色します。炎天下でケースを開けるのも厳禁です。