ヴァイオリンの部品の選び方 


部品とは?

ヴァイオリンと弓に付いてくる色々な部品を言います。楽器については弦と肩当て、顎当て、テールピース、ペグ(糸巻き)、弓については毛と松脂があります。
音の基本線は楽器本体と弓で決まるので、部品に必要以上に神経質になる必要はありませんが、なんでも良いというわけでもありません。自分の楽器と弓を最大限活かすためにも、折りに触れて見直しは必要です。


楽器

・弦

 大きく分けてガット弦とナイロン弦の2つに別れます。今手に入るガット弦はPirastroの出しているEudoxa(オイドクサ)とOlive-end(オリーブ)の2種類しかありません。

 私は自分ではオリーブを使っています。(G線など高いので、オイドクサを使う人もいるそうです。演奏効果もかなりあるそうですが、私はまだ試していませんので、言及出来ません。)何年か前にガットでない弦を色々探したことがあるのですが、私にはどれもシックリきませんでした。私は音の点からガットをお奨めします。ただすごく汗をかく人の場合にはガット弦はアッという間に劣化するので、ガット弦以外から探した方が良いでしょう。

 ガット弦は高くてすぐに悪くなるという話がありますが、それは間違いです。たしかに1本あたりの値段は高いですが、ガット弦はナイロン弦よりはるかにもちます。ナイロン弦が良い音を出すのはせいぜい3週間位ですが、ガット弦は2月位はもちます。(もちろん弾き方によって持ちは違いますが、私が試した限りではこんな感じです。)

 それと同時に弦のゲージも慎重に選んで下さい。stark(strong)、mittel(medium)、weich(soft)などの感触的表現の場合と、Pirastroのガット弦のようにゲージを数字で表現する場合があります。(Pirastroの場合、1/4単位で基本的に5段階に分類されています。)いずれの場合も1段階変えるだけで感触はすごく変わります。充分時間をかけて慎重に選んで下さい。弦が弾き方を支配してしまうこともあります。参考までに、私は標準ゲージA線:13 1/2、D線(silver):13 3/4、G線(rigid):15 3/4を使っています。

・肩当て

 肩当てはとても個人差が大きく、それぞれの方が好みでお選びになって良いでしょう。ただ銘柄によってカーブの取り方が違います。中には上の2つのようにカーブの取り方が正反対のものがあります。自分に合うものを慎重にお選び下さい。
 私自身は小さいタオルを折り畳んで肩にあてる方が違和感が少ないので、そのようにしています。またヴァイオリンを弾く時は暑くても出来るだけ襟のあるものを着て、襟の下にタオルを入れるようにしています。

・顎当て


左から黒檀、ローズウッド、ツゲ

 黒檀、ローズウッド、ツゲの3種類の中から選べます。比重が黒檀はほぼ1.1、ツゲは0.7とかなり違うので、当然音質も違ってきます。黒檀は重心が下がりますが、楽器によっては音の粒が大きくなる場合があります。ツゲは明るい音が特徴ですが、場合によっては神経質に聞こえます。(同じ材質でもメーカーによってかなり音色は変わります。)一般的な傾向を知るのは大切ですが、自分の楽器との相性をしっかり見極めないといけません。

・テールピース、ペグ

 顎当て同様3種類の材質があります。当然音にも影響がありますが、テールピースとペグは顎当てのように簡単には取り替えられません。指板や楽器に手を入れる時に一緒に取り替えてもらうのが良いでしょう。特に顎当て、テールピース、ペグの材質を揃える必要はないので、無理して替えなくても良いでしょう。


・毛の産地

 楽器屋さんによっては毛の産地を選べるところがあります。産地によって感触はかなり違うので、自分の好みに合わせましょう。私はモンゴル産を使っています。

・松脂

 発音に深くかかわってくるので、慎重に選ばないといけません。また試してすぐに結論は出ません。松脂を替えると弾き方が変わり、それに合わせて感触も変わってきます。たくさんある中から2〜3種類に絞り込むのは簡単に出来ますが、その先はとても微妙です。私はBogaro&Clementeを使っています。

 

今の決定版
Bogaro&Clemente
Bogaro&Clementeに出会う前の定番
中央の2つBernardelとGuillaume
その他の色々な松脂達

 また季節によって替えた方が良い場合もあります。一般的には梅雨〜夏は湿度が高いのでサラッとしたLight系、乾燥する秋〜冬はDark系が良いでしょう。物によっては同じ松脂でも夏は少しだけ使い、冬はたくさん使って粘り気を出す、というように使い分けることもできます。


弦と弓の毛の寿命について

ヴァイオリンの弦や弓の毛は弾かなくても劣化します。最低でも年に3〜4回季節が変わる度に交換して下さい。私たちの場合はせいぜい1月から1ヶ月半しかもちません。そのまま使っていると音が(ついでに耳も)悪くなります。特に梅雨時は劣化が激しいです。またE線はすぐ錆びるので他の弦の半分くらいの期間で交換して下さい。弓の毛も弦と一緒に替えて下さい。

弦の交換についてですが、必ず1本づつ替えましょう。4本全部を同時に外すと魂柱が倒れます。
また弦を巻き上げるときは、駒が倒れないように駒の角度に注意して下さい。表板も裏板も魂柱のあたっている所が割れると楽器の価値は1/3くらいに落ちますので、充分ご注意下さい。弦の張り方は次をごらん下さい。


弦の交換の仕方

ここでは弦の交換の仕方を説明します。まず弦は「魂柱」が倒れたり、位置がずれたりしないように1本づつ交換して下さい。どの弦からでも良いですが、1本はずして交換し弦の音程を大体合わせます。次の弦をはずし、また大体音程を合わせます。こうして4本全部交換してから音程を合わせます。

弦はそろえて巻き、弦が糸蔵に触ってゆるまないようにして下さい。
全部の弦を交換したら駒を見て下さい。
駒の自分の側の面が楽器の側面と表面の境の線に対して直角になるようにして下さい。駒の上の面 がこの位置より左に来ている場合は次のようになおして下さい。
右手の親指と人差し指で弦を強く挟み、左手の親指と人差し指で駒を右に押します。(つまり左手で駒を押して、右手で駒が倒れるのを防ぐ)

駒の角度を直すのにこのスタイルで直すのはお奨めしません。なぜなら力加減が難しく、動かしすぎたとき止められないからです。

指板の下にある白い四角の板のように見えるのは、ウェッジというものでボール紙を何枚も重ねて油紙で包んだものです。これは湿気で指板が下がるのを防ぐために使っています。(楽器をしまっておく時はいつも入れておく)

 左手で駒を押して右手でそれを抑えるのは、右利きの場合右手が強いので、左手で押し過ぎたのを抑えやすいからです。

 ウェッジは指板が下がらないようにするためのものです。(ウェッジをしたら指板が落ちない訳ではないので、湿度に対する注意は必要です。)もちろん弾く時は外します。参考までに作り方をご紹介します。

 ボール紙から短辺が2cm長辺が6cmの四角形を何枚か切り出し、上の写真のようになる枚数を決めます。そしてそれを油紙のような柔らかい紙で包みます。そして紙絆創膏でとめます。
 E線側とG線側の高さが違う場合は、低い側のボール紙を何枚か切り取って写真のように真っ直ぐ入るように調整して下さい。


ケースの湿気取り

 ウェッジについて前項で書いたので、指板が湿気で下がった時の対処法をご紹介します。
 指板の延長線と駒の交点の高さは27mmが標準とのことですが、梅雨の時期など気をつけていないと指板が下がってしまいます。2mmも下がると指にはかなりきつく感じるようになります。弾いて指を押さえるのがきつくなったり、指が痛くなったりしたら、まず指板の高さを調べて下さい。

 もし指板の高さが落ちてきたら、ケースを乾燥させましょう。乾燥剤では追いつきません。
 まずバスタオルにアイロンをかけて完全に乾燥させます。 そしてその熱いバスタオルをケースに入れてフタをします。(当然のことながら楽器、弓、松脂など熱に弱いものは外に出しておきます。)そしてそのまま1時間位放っておき、ケースの中の熱が取れたら楽器弓など取り出したものを元に戻します。練習している間にケースを乾燥させるのがお奨めです。つまり楽器の湿気を乾いたケースに吸わせるのです。
 それでも症状が改善されない場合は楽器屋さんに診てもらって下さい。(指板の下に薄い木を挟んで指板の高さを上げるなどの手術が必要です。2〜3日から1週間位入院することになるでしょう。)
 普段弾く時には除湿器かエアコンのドライ運転を使いましょう。いずれにしても本当に湿度が上がって除湿が追いつかない時は「バスタオルにアイロン」です。

 梅雨から真夏の時期の湿度はとても高いので、梅雨のないヨーロッパから輸入されたヴァイオリンが初めての梅雨を迎える時は湿度の管理が大事です。最初の梅雨に何も事故が起こらなければ、その後も大したことなく過ごせるでしょう。でも最初の梅雨にニカワが剥がれるなどの事故が起こると、それが癖になって梅雨ごとにトラブルを起こしがちになるそうです。そのためにも「バスタオルにアイロン」は大事です。


音の判断について

 たくさんある候補の中から自分に合う物を選ぶには、弾いてみるしかありません。音を聴く時、弾いている本人にどう聞こえるかではなく、会場で聴いてどう聞こえるかが問題です。そういう視点で自分の音を判断するのはとても難しいです。
 ビデオで撮って音を判断するのも難しい問題を抱えています。ビデオを近くに置いたのでは、直接音ばかりが強く録られて、実際に聴いた時に感じる間接音がほとんど録れません。身体の動きを見るにはビデオは良い方法ですが、音についてはよほど気をつけて録らないといけません。
 また弾いている本人はすごく音が違うつもりでも、横で聴いているとそんなに違っているようには聞こえません。ほとんどの場合物の違いより奏者の違いの方がはるかに大きいものです。本当に音が違うのなら、聴いている人が言われなくても気がつくはずです。それに良い物から良い音を引き出すには技術が要ります。良い楽器は誰が弾いても良い音がするのではありません。
 楽器の弾き較べは、 実は弾き手の方が楽器に試されているのです。怖い怖い........(笑)